開場65周年記念豊橋競輪「ちぎり賞争奪戦」
8月24日(日):最終日
最終、11レース
多くのお客様の関心は、地元の誇る2枚看板に注がれておりました
この3日間をとおして
いえ、この3日間のみならず、その人が走る時にはいつでも
勝つ事が、まるで義務のように
それが当然だとでも言うように
一流同士の勝負に絶対や当然などあるはずもないのに
勝てなかった時には
そんな当然の事が何故できない?とでも言うように
それがどれほどの重圧なのかは、わたくしでは想像すらできません
そして勝った時にでも
喝采に混じり、勝ち方への叱責が飛びます
勝って当然
勝ち方も完璧でなければならない
そんなプレッシャーの中でも
寡黙に、冷静に、真摯に、「自分の走りを心がける」と
「お客様の期待に応えられるように」と
その期待がどれほど高かろうと
それに応えられるように、と、ただその言葉を繰り返し
その言葉を裏付けるように、行動を繰り返す
どれほど凄い事なのか、わたくしでは追いつかない世界の事です
そして本日、8月24日
最終日、最終レース発走5分前
場内へと出たわたくしの目に映りましたのは
近年で記憶にない数のお客様でした
人ごみの中を歩いているだけで、幾つもの声が聞こえました
「深谷」「金子」と
どの声からも、ワクワクしている事が、その高揚感が、隠しきれずににじみ出ていて
その声が連なり、束になり、競輪場全体に、浮いているかのような高揚感が充満しておりました
その声は、その人の登場で叫びとなり
それらは怒号と言うべきなくらい強い口調だというのに、優しくて、あたたかくて、そしてやはりどこかウキウキしていて
優しい怒号は、連なって、束になって
まるで波のようにうねって、場内を埋め尽くしていきました
レースの動向を、何百何千の目が固唾を飲んで追っていました
バンクをぐるりと囲う金網に隙間がないほどに、たくさんの、本当にたくさんのお客様が優しい怒号をその人へかけます
そして最終周、その二人が前へ出ると、ひときわに大きな歓声が巻き起こりました
「いけ!」「そうだ!」「それだ!」「それを見に来た!」「待ってました!」「とれ!」「勝て!」「行っちまえ!」「やってくれたよ!」「やっとだ!いけ!」
感情がそのまま漏れたような、たくさんの歓声が、腹に響くような地鳴りとなる中
その人は、先頭でゴールラインを通過しました
大歓声に、万雷の拍手が加わり、放送を聞き取る事が難しい程でした
「やっと見れた!やってくれた!」「かっこよかったなあ!アレをここで見たかったんだよ!やっと見れたよ!」「長い事待ったけど、くーっ!あー!やったなーあいつ!」
周囲で、お客様が本当に楽しそうに、本当に嬉しそうに、言葉を交わされておりました
まるで、自慢の息子の話でもするかのように
「おめでとう!ありがとう!」「やったな!おい、やったな!」「待ってたぞ!ずっと待ってたぞ!やったな!」「いいもん見れたわ!」「それが見たかったんだよお前!」
思い思いの言葉をお客様が、大声でバンク内に投げ入れていました
その言葉は本当に人それぞれでしたが、意味は皆、同じだったと思います
みんな、それを待っていた
仲間に祝福され、宙を舞う深谷選手にあたたかい歓声と拍手は止むことなくかけられ続けました
表彰式にも、過去類を見ない程のお客様が残ってくださいました
皆が口々に繰り返します
「おめでとう、これが見たかったんだ、ありがとう」と
佐原市長からの表彰、祝福の言葉の最中もお客様の興奮は冷めやらず
深谷選手への称賛
当初目標売上の達成
その要因となった最終レースの驚異的な売上
そしてこれからも豊橋競輪場は一丸となって頑張っていくという事
その全てに、大きな大きな歓声が、相の手となり応えてくださっていました
その場にいる全ての人が同じ思いを抱えているかのようで
嬉しくて嬉しくてたまらない、と
目の前で見る事ができている、自慢の息子の晴れ舞台が、嬉しくてどうしようもない、と
日が落ち無人となった場内に、まだ熱が残っているかと思ってしまう程の歓声と拍手と共に、豊橋記念は幕を閉じました